こんにちは、りょう矯正歯科クリニック院長の阿部です。
前回は、成人矯正(本格的矯正治療)について、不正咬合を治した方が良い理由を中心に書かせていただきました。
現在、本格的矯正治療の装置には、歯の表側あるいは裏側(舌側)にブラケットを着けてワイヤーで歯を動かすマルチブラケット装置とマウスピースで歯を動かすインビザラインなどのアライナー装置によるものがあります。
どの装置を使う場合も、治療する側が一番初めに考えることが理想的な状態にする為に、抜歯が必要かどうかです。
矯正を始める上で、抜歯が必要かどうかは治療される側にとってはとても気になる所ですよね?(治療する側も一番悩むところです)
矯正で小臼歯を抜歯して治療する場合を「抜歯ケース」、小臼歯を抜かないで治療する場合を「非抜歯ケース」と言います。
抜歯ケースの場合、抜くことにデメリットのない、前から数えて4番目(第一小臼歯)か5番目(第二小臼歯)を必要抜歯することが多くなります。
抜歯をしないで理想的な歯ならび・咬み合わせをつくれるのが一番ですが、状態によっては抜歯をした方が良い場合や抜歯をしないと治せない場合があります。
今回は、一般的な考え方とその根拠を中心に「必要抜歯の判断基準と抜歯ケース」、次回は、「歯を抜かない非抜歯治療」について書かせていただきます。
それでは、どういった場合に必要抜歯をするのでしょうか?
「顎のサイズが小さくデコボコの量が大きい」、「切歯が前突して、唇も突出している」、「上顎と下顎の顎間関係にズレがある」もしくは「前述のものが合併している」などの場合です。
あくまでもその程度の問題ですが、これらの症状が重度であるほど抜歯が必要になる可能性が高くなります。
矯正では、デコボコの量と切歯の前突度合いをそれぞれ模型とセファログラム(エックス線写真)より計測し、それらを数値化し足したものを抜歯判定の基準に使っています。
この値を(専門用語で)トータルディスクレパンシーといいます。
デコボコの量を計測する意味は、「スペース不足により生じているデコボコを改善させるのに歯を並べるスペースがどれだけ不足しているか」を確認する為です。
切歯の前突度合いを計測する意味は、「切歯を理想的な位置に動かすために必要なスペース量を知る為」です。
これら二つを合算した値(トータルディスクレパンシー)から、理想的な位置に歯を並べるのに不足しているスペース量が導き出されます。
Tweedの抜歯基準では、これが4mm以上の場合、抜歯が必要となっています。
Tweedの抜歯基準を基に考えると、トータルディスクレパンシーが4mmを大きく超えているような場合に抜歯せず、スペース不足という根本的な原因を残したまま治療することは、歯をむりやり並べているだけになりますので
「後戻りしやすい」
「前歯の前突は治らず、口もとの突出も改善しない」
「歯の安定する位置(ニュートラルゾーン)の外側(唇側・頬側)に歯列を並べることになる」
「口が閉じにくくなったり、口が大きくなった印象になることがある」
「良い咬み合わせを作りにくくなる」
といったことが考えられます。
逆の言い方をすると、「歯を並べるスペースが絶対的に不足しているケース」では
「後戻りしにくい綺麗な歯列・良い咬合を作ること」
「前突している歯を引っ込め、口もとの突出(審美性)を改善させること」
「歯・歯周組織の負担にならない位置に歯を並べること」
「歯列(アーチ)を拡大させることにより口が大きくなりすぎるのを防ぐこと」
などの目標を達成すためには、抜歯が必要になるということです。
今回の記載したTweedの抜歯基準は、抜歯考える上で基本となる有名な考え方の一つです。
「なんで歯を抜くんだろう?」の参考になれば幸いです。
担当する先生や、治療される方の歯ならび・咬み合わせ、骨格やお顔の印象によって抜歯・非抜歯の判断は違ってきます。
矯正にご興味のある方、ご自身の歯ならび・咬み合わせにお悩みの方は、ぜひ一度相談にいらしてください!
次回は、「歯を抜かない非抜歯矯正」についてです。